どこか懐かしさを感じさせる手作り感と、洗練されたデザインで人気を集めるチェコの絵本たち。
1932年Courtesy of the Heirs of Josef Čapek
20世紀初期から邦訳が出版され、岩波少年文庫のロングセラーとなっている『長い長いお医者さんの話』や、かわいらしい愛犬の写真をアレンジした絵本『ダーシェンカ』などを生み出したチャペック兄弟、そして牧歌的な魅力を持つチェコの国民的絵本作家ヨゼフ・ラダの作品は、こうしたチェコ絵本人気の先駆けとなりました。さらに、人形アニメーションへの関心とともに、イジー・トゥルンカなどの絵本が紹介され、今日まで根強いファンを持っています。
古くは『世界図絵』にまで遡る長い伝統を持つチェコの絵本は、現在もなお、チェコ独自の民族色や民話の世界に裏打ちされながらも、新しいデザイン感覚やコミック、写真マンガなどの手法を取り入れて創作する若い世代の才能溢れる作家を輩出しており、ボローニャ国際絵本見本市などでも高い評価を得ています。
本展では、作家15名による絵本原画やリトグラフ、絵コンテ、デッサン、制作過程の資料や絵本など約150点を通して、チャペックなどチェコ絵本の伝統を築いた草創期の巨匠から、近年チェコで注目を集めている最新鋭の作家たちの創作まで、日本とのつながりを含めながら、その幅広く奥深い魅力をご紹介いたします。
カレル・チャペック 『ダーシェンカ、あるいは仔犬の生活』(写真)1932年
Collection of Památník Karla Čapka, Strž
■展示構成
――――――――チェコ絵本の源流
20世紀に入ると、それまでの装飾性の強い愛蔵版の絵本に比べて、より大衆的で教育的な目的をもちながら、単純な造形の中にユーモア溢れるすぐれた子ども向けの絵本が生み出されていきます。「ロボット」という言葉の生みの親でもあるチャペック兄弟による『長い長いお医者さんの話』などは、岩波文庫のロングセラーともなって多くの日本人に親しまれているほか、新聞の日曜版の挿絵や教科書など様々な形でチェコの人々に浸透していったヨゼフ・ラダの作品も、その牧歌的な民族色の濃い作風で、日本でも人気を集めています。
――――――――国境を越えて
第二次世界大戦後の東西冷戦下にあっても、チェコの絵本は世界的な絵本原画展などの場を通して、高い評価を受けました。しかし、長く続いた社会主義体制の元では、国営の出版社により一元的に絵本が発行され、発表の場が制限されることもありました。そうした中、国外に活躍の場を求め、創作・発表の拠点を移した作家も少なくありません。「色彩の魔術師」と称されるクヴィエタ・パツオフスカーは、ドイツやフランスの出版社から絵本を出版し、現在ではグラフィック的な作品を多く手がけています。また、アメリカに渡って作家活動を続けているピーター・シスも、「鉄のカーテンの向こう」で育った自らの体験を基にした絵本『壁』などが高い評価を受け、2012年に国際アンデルセン賞を受賞しています。
――――――――現代のチェコ絵本
子どものための優れた絵本と、秀逸なブックデザインの伝統を受け継ぐチェコの現代の作家たちは、絵本の創作が世界的に同じような潮流の中に置かれている今日も、チェコ的な魅力に溢れる絵本を生みだし続けています。リトグラフによる詩的な絵本を生み出すペトゥル・ニクルも、絵本創作にとどまらず、光と影が織り成す幻想的なインスタレーションなどを行い、愛知万博のチェコパビリオンでも作品が紹介されました。また、プラハ美術工芸大学で教鞭をとるユライ・ホルヴァートらは自らの出版社を設立し、アルジュビェタ・スカーロヴァーなど、才能溢れる若手作家たちと組んで様々な技法による絵本を発表し、国内外で高い評価を得ています。
――――――――チェコ絵本と日本
近年チェコでは、絵本の中にマンガの手法を取り入れる試みがみられるようになりました。日本のマンガだけではなく、フランスのバンド・デシネとの交流の中から、絵本にコマワリが用いられるなど、新しい潮流として浸透してきています。また、ブラチスラヴァ世界絵本原画展でグランプリを受賞した後、チェコに在住して制作を続けている出久根育は、チェコやスラヴの民話に挿絵を手がけ、東欧の香りを漂わせる絵本を発表しています。さらに、ヨゼフ・チャペックの絵により親しまれてきたカレル・チャペック作『長い長いお医者さんの話』は、型染め作家の関美穂子など日本人作家が新たに挿絵を手がけた新訳版がシリーズで出版され、日本的な技法がチェコ絵本の古典に新しい魅力を添えています。
出久根育 『とらわれた銀の太陽』(挿絵・原画)2015年©Iku Dekune
-チャペックからチェコ・コミックまで-東欧の絵本大国「チェコ絵本をめぐる旅」
開館時間:午前10時-午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜日(ただし、7/18は開館、7/19は休館)
観覧料:一般700(560)円、大高生500(400)円、中学生以下無料
( )内は20名以上の団体料金。高齢者(65歳以上)および身体障がい者手帳・精神障がい者保健福祉手帳・療育手帳をお持ちの方ならびにその介護の方1名は各当日料金の半額。
*観覧無料の日=7月18日(月・祝)、8月12日(金)
主催:芦屋市立美術博物館
後援:チェコ共和国大使館、チェコセンター東京、一般社団法人 日本国際児童図書評議会(JBBY)、兵庫県、兵庫県教育委員会、兵庫県社会福祉協議会、公益財団法人 兵庫県芸術文化協会、神戸新聞社、NHK神戸放送局、FM802
協力:ジュンク堂書店 芦屋店
企画協力:株式会社イデッフ
東欧の絵本大国「チェコ絵本をめぐる旅」
招待券5組10名様にプレゼント!
応募する!
応募締切りは6月24日(金)まで!!
■ミュージアムショップ
本展の会期中、ミュージアムショップでは、出展作家の絵本をはじめ、本展オリジナルグッズや絵はがき、各種ステーショナリーや、藍染めなどのチェコ雑貨を販売いたします。
また出展作家によるオリジナル・マスキングテープも入荷予定です。
■同時開催
「芦屋の歴史と文化財」展 7月2日(土)~9月4日(日)