【記者会見「団地」】主演・藤山直美、阪本順治監督

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実在の逃亡犯をモデルにし、数々の映画賞を総なめにした『顔』以来16年ぶりに、阪本順治監督が藤山直美とタッグを組み、古ぼけた団地を舞台に主人公夫婦の少し変わった日常をユニークに描いたコメディ『団地』が6月4日(土)より、シネ・リーブル梅田ほかにて公開される。藤山扮する主婦・ヒナ子と、ある事件をきっかけにヘソを曲げて突然団地から姿を消した岸部一徳扮するヒナ子の夫にまつわる、不可解な噂とその驚くべき真相がユーモラスに綴られている本作の公開に先立ち、主演を務めた藤山直美と阪本順治監督が来阪し、会見を行った。

まずは、16年ぶりのタッグとなったことについて阪本監督は「久しぶりにオリジナルの作品を作らせてもらって、たまりにたまっていた物を吐き出してすっきりした気分です。この映画は16年ぶりだからこそできた作品だと思います。藤山さんとやるのは『顔』が最初で最後だと思っていたので、『顔』の直後だったら、仮に藤山さんのスケジュールが空いていても作ってなかったと思います」、藤山は「『顔』の時が40歳ぐらいで、今回は後3年で還暦という歳でまた阪本監督に映画を撮っていただく縁があって、月日の流れはすごく大事だと思いました。『顔』から16年、監督も私もスタッフの方々もそれぞれの人生を送ってきて、私も人生後半の歳になって監督に撮ってもらえて良かったと思います。『顔』の頃にはなかったシワやしみもできていますし、ほうれい線もくっきりしてきて、そういう歳だから作ることができた作品だと思います」と、どちらも16年の時を経て結ばれた縁に感謝しているようだった。

 本作の発想の原点については阪本監督は、「阪本と藤山のイニシャルを取ってSFなんです(笑)。子どもの頃に空想と妄想で遊んでいたことや、僕がその頃ずっと考えていた人が死んだらどこへ行くのかということについて答えを出してみたいと思ったんです。人の死に対する疑念みたいなものを突き詰めていくと、宇宙にまで話が及んだんです。でも、この映画は藤山直美さんが主演だからできたんです。藤山さんが主演で、団地という場所設定だから遠くまでいけたんじゃないかと思います」、藤山は「阪本監督が撮ってくださるなら、と出演をOKしたんですが、台本を読んだら「ついに監督は頭がおかしくなったんかな?」と思いました(笑)。それでも、監督の頭の中には完成図があると思いましたし、これは監督に任せないと仕方ないと(笑)」、対して監督は「公の席なのでだいぶ加減してくださっていると思います」と苦笑いし、「僕としては、そう言ってもらえると嬉しいんです。藤山さんに「何これ?」と言われたくて頑張って脚本を書いたので。今回は藤山さんをできるだけ遠いところに連れて行きたかったんです」とさらに言葉を重ねていた。

 また、主人公夫婦の部屋に漢方薬を求めて訪れる謎の男を演じた斉藤工について質問が及ぶと、阪本監督は「最初に台本を見た時に藤山さんが「斉藤“え”って誰?」っておっしゃっていましたけど、僕も彼の出演作はほとんど観ていなくて、彼の発言したことを読んだりして、この歳の俳優さんにしては老成していますし、一人の人間として行動している冒険家みたいなところがあると感じました。彼の日々の物の考え方は信頼できましたし、藤山さん、岸部さん、大楠さん、石橋さんというベテラン俳優さんに現場で可愛がられる俳優であることが大事だと思ってキャスティングしました。斉藤くんは過去の映画も今の映画もたくさん観ていますし、先達である俳優さんをリスペクトしていたので、可愛がってもらっていました」と高評価。藤山は「私、本当に斉藤“え”って言いました(笑)?私、印刷ミスやと思ったんです。もちろん、雑誌などではお顔を見たことはありましたけど、じっくり見たことはなかったので。心の温度は高いけど、静かな方でしたし、映画が本当に好きなんだと感心しました」とコメント。さらに、阪本組の常連である岸部一徳、大楠道代、石橋蓮司について阪本監督は「岸部さんも大楠さんも石橋さんも、スケジュールが空いているかどうか確認もせずに自然に思いついたキャスティングで、彼らを想定して脚本も書いたんですが、大楠さんは藤山直美さんとの2ショットをもう1度見たいと思いましたし、岸部さんも石橋さんも物語のためというよりも映画を作る場所がこうあってほしいという思いでキャスティングしました。大楠さんも石橋さんも台本が手元に届く前に出演をOKしてくださったんですが、実はお二人も台本を読んで「阪本、大丈夫か?」って心配していたらしいんです(笑)」と笑いを誘っていた。

 最後に、出来上がった作品について阪本監督は、「今回の映画では、ユーモアも含めたキテレツな部分の頃合いがすごく難しかったです。結局は、僕たちが生みの親で、映画館がゆりかごで、育ての親がお客さんだと思っているので、後は野となれ山となれですね。それでも、久しぶりのオリジナル作品なので、自分のことが問われると思うと怖いですが、お客さんの反応が楽しみです」と力強く語っていた。一方、藤山は「私はこういう宣伝に全く向いてない人間なので」と前置きし、「今はスタッフで集まっても、この映画をいいと思っている人ばかりなので「良かったね、良かったね」ばっかりですが、舞台でも映画でも同じで、お客さんありきなんですよね。チケットを買って観に来てくれたお客さんの感想が全てだと思っていますので、それはどちらでも姿勢は変わりません。それでも、この映画は大人が真面目にやっている喜劇なので、気楽に観に来てくださればいいと思います。もしかしたら楽しんでもらえるかもしれないし、もしかしたらパンフレット投げて帰られるかもしれません(笑)。私たちはいいと思って一生懸命やっていますが、お客さんと作品との相性がありますから。もしこの作品を気になったら、観に来てくれはったら嬉しいなと思います」と率直に語っていた。すると阪本監督が、「大阪を舞台にした映画を大阪で公開するのはすごく怖いです。僕のデビュー作の『どついたるねん』は大阪でめちゃくちゃ酷評されましたし。大阪は娯楽に対して厳しいんですよね。『顔』がテアトル梅田で公開されて立ち見が出ていると聞いて、たまたま堺に帰ってきていたので、見に行ったんです。そうしたら受付でもめ事が起こっていまして。おばちゃんが受付のお姉ちゃんに「立ち見やったら300円まけて」って言っていたんです。僕は怖いと思ってそのまま帰りました(笑)」と体験談を交えて話すと、藤山は「怖いから、大阪では役者が育つんです」と断言。「何でもわーきゃー言うようなお客さんではなくて、内心で早く終わったらいいのにと思っているような団体客に大阪の役者は育てられるんやと、私の父はいつも言っていました。興味もなかったお客さんに、終わった後に面白かった、来て良かったと思ってもらえるまで頑張るのが役者だと思うので、大阪のお客さんが一番親切やと私は思います。なんでって、ほんまのこと言ってくれるから。私は関西のお客さんをすごく信頼してますし、私はこれからも関西で頑張っていきます」と力強く語っていた。

映画賞を総なめにした『顔』のコンビが贈る
妄想としゃべくりのハーモニー

団地_メイン写真
©2016「団地」製作委員会

STORY
“前人未踏”の挑戦に挑む、男たちの熱き想い。命を削って挑む先にあるものとは?
大阪近郊にある、古ぼけた団地。昭和の面影を残すその一角で、山下ヒナ子は、夫で元漢方薬局店主の清治とひっそりと暮らしていた。半年ほど前に店を閉め、引っ越してきたばかり。腰は低いがどこか世を捨てた雰囲気に、住民たちは好奇心を隠せない。調子のいい自治会長の行徳と、妻で“ゴミ監視役”の君子。クレーマーで次期会長を狙う吉住に、暇を持て余した奥さま連中。ときおり訪れる妙な立ち居振る舞いの青年・真城だけが、山下夫妻の抱えた過去を知っていた──。そんなある日、些細な出来事でヘソを曲げた清治が「僕は死んだことにしてくれ」と床下に隠れてしまう。夫の姿が団地から消えても、淡々とパートに通い続けるヒナ子の言動に、隣人たちの妄想は膨らむばかり。「もう殺されてると思う…」。一人がつい口にしてしまった言葉をきっかけに、団地を覆った不安は一気にあらぬ方向へと走りだして……。

監督・脚本:阪本順治
出演   :藤山直美 岸部一徳 大楠道代 石橋蓮司
      斎藤工 富浦智嗣 / 竹内都子 濱田マリ 原田麻由 滝裕可里
      宅間孝行 小笠原弘晃 / 三浦誠己 麿赤兒
配給   :キノフィルムズ 
映画『団地』公式サイト
2016年 6月4日(土) 全国ロードショー