【2015年1月24日(土)公開】廣木隆一監督インタビュー【さよなら歌舞伎町】

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「人間」と「今」を描く監督、廣木隆一氏による歌舞伎町を舞台にした人間模様

人恋しくなる冬だからみたい映画があります。
冬の後に待つ春に向けてみたい映画があります。
廣木隆一監督による「さよなら歌舞伎町」はそんな映画の一つです。
さらに言うならば、人をリラックスさせ、また奮起させてくれる良質な映画の一つでもあります。

舞台はタイトルの通り、東京・歌舞伎町。
ホテル街のイメージの強いこの場所の、まさにそのラブホテル「HOTEL ATLAS」を中心にストーリーは進む。

愛を求める者も、愛に裏切られた者も、夢を追う者も、夢に破れた者も、みんなこの街、歌舞伎町にやってくる。そして、誰かと触れ合い、別れを経験して、新しい世界へ旅立っていく。

派手なアクションはもちろんないし、悪者だっていない。
超能力だって使えないし、誰かを癒す力を持っているわけでもない。
いるのは、日本のどこかに本当にいるんじゃないかと思う一人ひとりの人間たち。
その等身大の人間たちが、戸惑い、苛立ち、ぐるぐると苦悩する。
その苦悩だって、他人からわかるものではなく自分の中だけのもの。
誰もがどこか共感できる人間たちが、最後には何らかの旅立ちをする。
その爽快感が何とも心地よく、やる気を起こさせてくれるのだ。

主演に、染谷将太。相手役に、前田敦子。
そんな売り文句がなくたって見てほしい映画だ。

魅力的な映画を撮った廣木隆一監督に公開前に単独インタビューをすることができた。

廣木隆一監督インタビュー

この作品を撮影することになったきっかけは何だったのでしょうか。

廣木監督(以下、H):荒井さんの書いた本があって、それをプロデューサーの元に持って行ったんですね。
そのプロデューサーは僕とも面識があったのと、僕が荒井さんの作品を撮ったことがあったので、
「じゃあ廣木がいるんじゃないか」となって話が来ました。

各登場人物の詳細なバックボーン、それぞれの未来についても明確には語られていません。これには理由がありますか?

H:僕はあまりバックボーンとか好きじゃないんですよね。
この人は、こういう過去を持っていて、だからこうした犯罪をして……
だったら、あぁそうかとはなるけれど面白くないでしょ?
この人はどうしてこんなところで働いているのか、住んでいるのか?
そうやってそれぞれが思いを巡らす方が楽しいからです。

作品を通して「笑顔」が少ないと思いました。その分、最後の南果歩さんが演じる里美の笑顔が大変印象的でした。
みんな不幸ではないけれど幸せでもない、というか……
この「笑顔」について役者の方々に具体的に指示していたのでしょうか。

H:特に指示はしていません。
僕はこの作品について「エンドロールの後まで見てほしい」と言っています。
エンドロールの後、あの笑顔でこの物語が救われているんですよね。

あと、作中で登場人物が食事をしているシーンが多かったと思います。

H:そうでしたか?
でも、食事って一番国民性が出るでしょ?
韓国人のカップルだったら、韓国のりを食べていたり。
里美が魚にかぶりつくのを見ると、日本人だなぁって思うし。

これは個人的に見ていてわからなかったのですが、作中で染谷さん演じる徹が気持ちを爆発させるシーンがあります。
あの時に脳裏にさまざまな女性がよぎりますが、あれは誰だったのでしょうか。

H:あのシーンは、徹はもともと口では一流ホテルのフロントで働いていると言いながら
実際はラブホテルで働いている、そんな中途半端な自分に苛立っていて、
そこにラブホテルに来た様々な女性の姿が脳裏に流れ、
中途半端さに限界が来たというシーンですね。

どのカップルも女性の強さを感じました。男性よりも女性のほうが芯があるというか……。
これには監督の女性観が関係しているのでしょうか。

H:これは僕というよりは荒井さんの方じゃないかな?

徹を演じる、染谷将太さんはどうでしたか?

H:よかったですよ。いうことないです。
いいことがなくて、フツフツしている、そんな男を演じてくれましたね。

では、その相手役沙耶役を演じる前田敦子さんについてです。
彼女を沙耶役に、と言ったのは廣木さんだったということですが……

H:僕が、というよりは……
今回、ギターを弾いたり、歌ったりするシーンがあるので、
それができてなおかつ役者もできるとなると、人選は絞られていました。
AKB時代に歌を歌っていて、と歌も歌えて、
役者もできるということで前田敦子もあるんじゃないかという話になったんです。

彼女の演技はどうでしたか?

H:最後の神社の境内で「待ってていい?」というシーンとかは、
なかなかできる演技じゃないですよ。
あの一瞬で、表情を変えることができるっていうのは彼女のすごいところですよね。
今後ますます役者として成長していくと思いますよ。

今作は監督にとって初めての群像劇ということでした。
実際に撮影してみて、どうでしたか。

H:他作品と群像劇が違うということはなかったです。
これからも撮っていきたいと思っています。

2015年は「さよなら歌舞伎町」以外にも監督作品が公開を控えていますね。
今後撮影してみたい作品はありますか?

H:ジャンルを問わずに「人間」を撮影していきたいと思います。
「今」を記憶していきたいです。

この作品を見て、元気になれる映画だと思いました。
何かを変えたい、前に進みたいと思っている女性に見てほしい作品でした。
監督が困難にあった時、どうやって前向きになれたかを教えて下さい。

H:僕ですか?
やっぱり映画ですかね。
みたら気分が上がる映画ってあるでしょ?「ロッキー」とか(笑)

監督が映画の業界で生きて行こうと思ったのはいつからですか?

H:母親が地方の映画館の支配人をしていて、幼いときはよく映画館で過ごしました。
だから映画……というわけではないんですが(苦笑)
監督を目指すようになったのは、大学に入って「自主映画」に出逢い、
自分でも映画を撮ることができるんだと知ってからです。

では最後に、読者に一言お願いします。

H:女性同士で見ても、カップルで見ても見終わった後に会話ができる映画だと思います。
映画を見た後の会話で、「さよなら歌舞伎町」っていう映画があってねと出てきてくれたら嬉しいです。

今日は貴重なお時間を頂戴し、ありがとうございました。

廣木隆一監督プロフィール

hirokikantoku
1982年、『性虐!女を暴く』で映画監督デビュー。出口トモロヲ主演による『魔王街・サディスティックシティ』(93)でゆうばり国際冒険ファンタスティック映画祭グランプリ(ビデオ部門)を受賞。翌年、サンダンス・インスティテュートの奨学金を得て渡米、『800 TWO LAP RUNNERS』(94)で文化庁優秀映画賞ほかを受賞。2003年の寺島しのぶ主演『ヴァイブレータ』では、第25回ヨコハマ映画祭をはじめ、国内外40以上の映画祭で監督賞ほか数々の賞を獲得する。その後、『余命1ヶ月の花嫁』(09)や『きいろいゾウ』(13)など精力的に作品を撮り続け、2013年の『100回泣くこと』が大ヒット後、2015年も『娚(おとこ)の一生』(15)、『ストロボ・エッジ』(15)と多数公開が控えている。脚本・荒井晴彦とのタッグは、本作で『ヴァイブレータ』と『やわらかい生活』(06)に続き3度目となる。

「さよなら歌舞伎町」 作品情報

「さよなら歌舞伎町」main1 小
「さよなら歌舞伎町」sub1 小
sub3

【公開日】
2015年1月24日(土)

【公開劇場(関西)】
テアトル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸にて公開

【ストーリー】
一流ホテルマンと周囲に偽る歌舞伎町のラブホテルの店長・徹。
彼はプロのミュージシャンを目指す沙耶と同棲しているがちょっぴり倦怠期。
勤め先のラブホテルでいつもの苛立つ1日を過ごすはずだった。
そこに集まる年齢も職業も違う訳アリな男と女たち。
彼らの人生が鮮やかに激しく交錯した時にあらわれる欲望や寂しさ、そして秘密。
徹の人生もまた予期せぬ方へ変わっていく……。

【スタッフ・キャスト】
監督:廣木隆一
脚本:荒井晴彦/中野大
出演:染谷将太、前田敦子、大森南朋、松重豊、南果歩ほか

【公式サイト】
http://www.sayonara-kabukicho.com/

【予告動画】
[youtube]https://www.youtube.com/watch?v=cpx8V6wP9dk[/youtube]

【その他】
R15+

【コピーライト】
©2014『さよなら歌舞伎町』製作委員会